後継者が見つからないことで事業が黒字でも廃業を選択する経営者が増えてきたなか、同族承継にとらわれず社内外から後継者を選ぶ動きが中小企業でも主流となりつつあるようだ。帝国データバンクが全国27万社の後継者動向を調べたところ、2019年以降の過去5年間に行われた事業承継のうち、前経営者との血縁関係によらない役員・従業員を登用した「社内昇進」(35.5%)が、前年まで最も多かった身内の登用である「同族承継」(33.1%)を上回って、事業承継の手法のうちトップとなった。
今回の調査で、後継者が「いない」または「未定」と回答した企業は14.6万社に上った。全国の後継者不在率は53.9%となり、中小企業の後継者問題は依然として厳しい状況にあるものの、6年連続で前年の水準を下回り後継者不在率は徐々に改善に向かっている。
後継者不在率の減少は、全国に事業承継の窓口が増えたことや、第3者へのM&A、事業譲渡、ファンドを経由した経営再建併用の事業承継といった支援体制が整備・告知され始めてきた影響があると、帝国データは分析している。これに加えて、後継者を親族にこだわらない姿勢が事業の継続にプラスに働いているようだ。帝国データでは「脱ファミリー化の動きが加速している」と述べ、「経営者の後継者問題に対する意識改革は確実に成果を上げている」と報告している。後継者を親族に限定せずに考えるなら、後継者候補の幅は大きく広がり、事業継続の可能性も高まる。
ただ、親族外承継では株式の扱いのやっかいさが高いハードルとして立ちはだかるのも事実だ。親族外の後継者が株式を承継するには、一般に贈与もしくは譲渡により承継することになる。贈与であれば、受贈者(後継者)に課税問題が生じるかどうか、納税資金を事前に用意できるかを考えなければならない。一方、譲渡なら、いくらで譲渡するかで頭を悩ませることとなる。適正な時価で譲渡しなければ後継者は思いも寄らない課税が課される。
贈与または遺贈では、財産評価基本通達に則った評価額を基に算定された高額の贈与税が課税されることもある。また、時価よりも低い価額で譲渡すると、互いの了承があったとしても、基本通達に則った評価額と乖離した分について、後継者に多額の贈与税が課される可能性が高い。
事業承継時に必要な資金調達については、長期間雇用されていた者であれば退職金を活用するケースも多くみられる。後継者だけでなく、同僚の従業員が退職した上で退職金を得て株式購入資金の一部とし、同僚従業員も取締役に就任するなど、新経営者を支える形で複数従業員が株式を買い取る対応もある。
また、政府系の金融機関による低利融資制度の利用や民間金融機関による融資を受けるほか、個人で融資を受けるのではなく、SPC(特定目的会社)を設立した上で、SPCが株式取得代金の融資を受け、SPCが当該株式を購入しその配当を得ることで弁済原資とする手法も多く活用されている・・・
(この先は紙面で…) 購読のお申込みはこちらから>>