帝国データバンク(TDB)の調査によると、2024年に発生した倒産のうち、法令や社会規範に意図的に反する行為(コンプライアンス違反)が関連していた倒産は388件だった。特に多かったのが「粉飾」が関連している倒産で、過去最多の95件(全体の24.5%)におよぶ。TDBはその理由について、2020年以降のゼロゼロ融資などの各種支援策によって表面化していなかった粉飾が、融資の返済期限が来たタイミングで発覚するケースが目立ったと分析する。さらに、「粉飾決算による倒産企業の負債規模は大型化しており、金融機関をはじめとする多くの取引先を巻き込む倒産が発生している」とつけ加えている。
粉飾決算は貸借対照表や損益計算書などの資料の改ざんで財務状況や経営状態を実際よりも良くみせ、取引相手から有利な条件を引き出す不正だ。大企業が主に株価対策を目的に手を染めるのとは違い、中小事業者による粉飾の多くは赤字企業などが有利な融資を受ける目的で行われる。
中小事業者が粉飾をした場合、税理士は「片棒を担いだ」と判断されてしまうリスクがある。顧問先が粉飾した決算書を基に、税理士は税務申告書類を作成し、黒字での申告を代理することになるのだから、疑われやすい立場となってしまう。
2016年に粉飾の責任をめぐって争われた裁判では、支出内容が不明な仮払金を未払金と相殺して帳簿上の負債を減らした税理士に損害賠償を命じる判決が出ている。この税理士は顧問先に粉飾の意図があった事実は知らなかったそうだ。税務処理や帳簿の確認に問題があったにせよ、顧問先の不正に巻き込まれた可能性は十分にある。
粉飾の露見によって顧問先事業者が支払う代償は大きい。冒頭のデータが示すように、倒産に至るケースは少なくない。そこまではいかなくても、金融機関から追加融資を受けられなくなり、多くの場合は既存融資の繰り上げ返済を迫られる。さらに会社法上の過料・制裁に加え、会社の財産を流失させたことによる刑事罰の対象になりかねない。
顧問税理士としても、前述の裁判例のように、会計処理の責任者のひとりとして損害賠償請求を受けかねない。加えて、詐欺とみなされれば刑法違反を問われ、また税理士法違反の信用失墜行為として懲戒処分の対象となるおそれもある・・・(この先は紙面で…)