衛省は7月12日、海上自衛隊員ら218人を処分すると発表。過去最大規模の大量処分となった。内訳は、潜水手当の不正受給で74人、自衛隊施設での無銭飲食で22人、特定秘密の漏洩で113人、部下へのパワハラで3人など。また、今回の処分とは別に海自では潜水艦乗組員らへの川崎重工業からの金品提供問題も抱える。
海自の潜水士による潜水手当の不正受給は、潜水艦救難艦「ちはや」と「ちよだ」で行われていた。17年4月〜22年10月に両艦に所属していた潜水員が、深海で作業する「飽和潜水」の訓練を実施していないのに潜水手当を申請したり、訓練時間や訓練深度を水増しして実際より多く手当を申請したりしていた。不正受給の総額は約4300万円にのぼり、なかには1500時間超分の過払いで約200万円を受け取った隊員もいた。
潜水手当は潜水する深度に応じて金額が変わり、水深400メートルでは1時間当たり1万円になる。架空の訓練をでっちあげていたのは「潜水員長」と呼ばれる潜水士のまとめ役で、その上司にあたる「潜水長」も不正を黙認し、自らも手当を受け取っていた。
部隊では代々、「架空の訓練計画」「深度・時間の偽装」による不正の手口が引き継がれてきた可能性がある。しかし、海自が調査したのは昨年3月までの6年間分だけだ。
民間企業でも「架空の出張計画」によるカラ出張費の不正受給や、「タイムカードの打刻を同僚に頼む」などの手口で「残業手当」を受給する従業員の不正が発生するケースは多々ある。会社は当然、当該従業員を処分し、不正に得た所得の返還を求めることになるが、「お金が戻ってくれば、それでよし」というわけにはいかない。
従業員に支払う給与について、会社は人件費として経費処理している。その分、会社の利益は減るのだから、納めるべき法人税額も少なくなっている。まずはこの状態を是正するため、修正申告して過少分を納付しなければならない。
お金が戻ってこなくても、戻ってきたとしても、税務上の面倒な手続きが必要だ。横領ならば雑損控除の対象となるケースもあるが、詐欺被害は控除の対象外。返還されたとしても、損害賠償金や慰謝料などとして認められることはほとんどない。
海自では隊員らに、受給した分の返還を求めていくとしているが、税金を詐取していた行為を単なる不正として処分するだけでは許されないだろう。部隊規模で長年にわたって慣習として行われてきた手口であり、管理者がその行為を黙認し、組織がその状態を放置してきたのだから、国庫金の計画的な詐取が横行していたといっても過言ではない。決して、「賃金の過払い分を返金させた」程度のことで済ませてはならない・・・(この先は紙面で…)