高齢化が進む日本は、世界でもまれに見る認知症大国だ。経済協力開発機構(OECD)によると、日本人が認知症を患う確率は2.33%で、先進35カ国の平均(1.48%)を大きく上回ってワーストとなっている。2012年に462万人だった65歳以上の認知症の患者数はすでに600万人を超え、団塊世代の多くが後期高齢者に突入する2025年には700万人に達する見通しだ(厚生労働省、グラフ)。この数字は高齢者の実に5人に1人が発症することを意味する。さらにコロナ禍で他人との交流や活動量が減少した影響により、認知症患者の症状が悪化する傾向が確認されたという日本認知症学会の報告もあり、今後は従来の想定よりも患者の増加ペースが上がる恐れさえある。
認知症は医学的に定義された病名≠ナはなく、認識力や記憶力、判断力といった対人関係に不可欠な能力が衰えて社会生活に支障をきたした状態≠指す。具体的には、@仕事や家事など普段やってきたことでミスが増える、Aお金の勘定ができなくなる、B慣れた道で迷う、C話が理解できなくなる、D憂うつ・不安症状が続き気力がなくなる、E幻覚が見える、F妄想がある――といった状態が認知症のサインだ。一般的な病気やケガと異なり身体に明確な異常が出るわけではないため、厚生労働省は「本人や周囲が気づかないまま事態が悪化してしまうリスクがある」と指摘する。
高齢化が著しい税理士業界では、とりわけ認知症の問題が急速に深刻化する恐れがある。日本税理士会連合会の調査によると、税理士の年齢層は60歳代が全世代で最多の30.1%に上っており、70歳代でも13.3%、80歳代でさえ10.4%を占めている。60歳以上が53.8%と実に半数を超え、いまや多くが予備軍≠ニしての認識が必要な状況だ。高齢化により認知症を発症して記憶力や判断力が衰えてしまえば、年々複雑化する税制や顧問先とのコミュニケーションに支障をきたし、取り返しのつかない税務過誤を引き起こしてしまうリスクがある。
損害賠償訴訟の問題に詳しい東京・千代田区の栗?祐太郎弁護士は、「すでに高齢税理士による税法改正の見落としや理解不足、届出の提出失念といった税務過誤の問題は顕在化している。実際に損害賠償訴訟を提起されている事例もある」と指摘する。
税理士賠償責任保険の事故原因を見てみると、認知症の代表的な症状である「モノ忘れ」や「勘違い」に起因するものが多数を占めることがわかる。最新の2020年度税賠保険支払い状況のうち、税目別で事故が最も多い消費税の事案では、簡易課税選択届出書や課税事業者選択届出書といった申請書類の提出失念が261件中179件と7割近くを占めた。事故原因では税理士の年齢などは公表されていないものの、栗田弁護士は「税賠保険の支払額が年々増えているのと認知症は無関係ではないだろう。毎年複雑化する税制に高齢の税理士がついていけてない実態が浮き彫りになっている」と見る・・・
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