少し前までは会社の“稼ぎ頭”としてフル稼働していた機械設備であっても、時代の流れとともに使用頻度は減り、いまではまったく使わなくなって工場の片隅でホコリをかぶっているということもあるだろう。解体や廃棄をしてスッキリしたいが、その費用の捻出は難しい。
そうした場合に使いたいのが法人税の「有姿除却」だ。読んで字のごとく、廃棄せずに姿はそのままでも、除却損を計上できる。昔からある制度だが、一躍注目を浴びたのが2011年の東日本大震災による原発事故だ。東京電力福島第一原発の爆発事故では、地域住民の多くが避難を余儀なくされたが、それは企業の社屋や工場も同様だった。放射能汚染されて今後は使い物にならなくなった建物は解体も困難であることから、ほとんどが放置された。そうした固定資産の多くで有姿除却が認められ、税務上の損失が計上された。
有姿除却は、日常の企業活動のなかで生まれた放置資産についても使える制度だ。とはいえ、税務署が有姿除却を認める際のチェックは厳重で、社長の「もう使わないつもり」といった程度の理由ではまず認められない。国税庁のウェブサイトには「特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの」と例示されており、放射能汚染ほどの大事でないにしても、税務職員を納得させるには相応の理由が必要だ。「実は大量受注があったときに稼動してしまった」「たまに古い商品の修理依頼がくると使っている」など、完全不要でないと見られれば容赦なく否認されるので注意したい。
不要資産を抱え込んでいる会社にとってはなんともありがたい制度だが、実際には廃棄していないものを帳簿上「廃棄した」ことにする以上、それなりの体裁を整える努力は必要になるということだ。