信託型ストックオプション  “大増税”で特別損失14億円も

 株式報酬の一種である信託型ストックオプション(信託型SO)の課税処理を巡り、人口知能開発のパークシャテクノロジーは8月14日、2022年10月~23年6月期の連結決算で14億円の特別損失を計上した。国税庁が信託型SOについて、企業が想定していたものと異なる税務処理を示したことが理由だ。
 SOは新株予約権の中で株式購入権と呼ばれ、事前に決めた「権利行使価格」で株式を購入できる権利を指す。なかでも信託型SOは、企業側が発行した全てのSOを一旦、信託会社が購入して預かり、企業側は成果や貢献度に応じて役員や従業員らに交付する仕組みだ。
 信託型SOにつき、これまでの一部の企業では信託会社が有償でSOを購入していることから有償SOを想定し、譲渡所得(税率20%)と考えていた。しかし今年5月、国税庁は信託型SOの取り扱いについて、「会社からの報酬と認められることから給与課税(税率最大55%)の対象と考えている」との見解を示した。国税庁によれば、これまでも問い合わせがあった時には「給与課税の対象になる」と説明してきたというが、統一した見解をホームページなどで明示したことがなかったため、誤解が解ける機会がなかった。
 パークシャ社もこれまでは、信託型SOを行使して株式を売却した従業員には20%の所得税がかかると想定してきた。しかし国税庁の見解を受け、給与として課税されることになると地方税を含めて最大55%の税金がかかることになる。
 同社はこれを受け、新たに源泉所得税を納付するとともに、本来は従業員が負担する所得税についても、全額を会社が負担することを決めた。「これまでの役職員等とのコミュニケーションや信託型SOの導入経緯を踏まえ、(中略)求償権の一部を放棄する判断をいたしました」としている。同日発表した22年10月~23年6月期の連結決算では、信託型SOに絡む14億6654万4千円の特損計上が響き、最終損益は5億円の赤字となった。なお同社は「本信託SO対応については今回をもって完了し、今後も信託型SOの活用の予定はない」という。
 信託型SOを巡っては、クラウドサービスを提供するSansanやAIを手掛けるJDSCなどもすでに特別損失を計上しているほか、上場新興企業13社が訴訟を検討しているとの報道もある。


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